2011/12/28

Ashridge Business School について



アメリカでは大学を母体とするビジネススクールが一般的なのに比べ、欧州では「企業系」などと呼ばれる私立のスクールが数多く存在する。有名なのはスイスのIMD、フランスのINSEAD、スペインのIEなどだが、MBAに興味のある人以外にはあまり知られていないだろう。

Ashridge もそうした企業系スクールのひとつで、学士課程の学部を持たず、大学院教育に特化している教育機関だ。もっとも、後述の理由により、欧州へのMBA留学を目指している人の間でも知名度はそう高くない。学校の特徴としては、以下が挙げられる。


■ フルタイムEMBA
入学に原則5年以上の実務経験が必要で、平均年齢も30代後半。普通、このカテゴリは EMBA:Executive MBAと呼ばれ、企業からの派遣者を対象にパートタイムで開講している学校が多い(授業料もかなり高額で1,000万円近かったりする)。フルタイムでEMBAを提供しているのは世界的に見てもAshridgeと、同じくイギリスのHenley Business Schoolくらいだと思う。

■ 少人数クラス
AshridgeのFull-time MBAは全部で30人程度しかいない。これを良いと見るか悪いと見るかは微妙なところだが、大規模ビジネススクールのように「今日はクラスで一度も発言の機会がなかった」なんてことは、まずなさそうな環境だ。

■ Consulting Project
実際に企業の中に入ってコンサルティング業務を行う教科だが、Ashridgeでは9〜10月に実施される。2ヶ月に渡ってプロジェクトを行うのは他ではあまり例がなく、実践教育をうたっているAshridgeならではと言えるだろう。

■ 施設
校舎は700年前に修道院として建てられたものを改築して使っている。1500年代にはエリザベス一世が住んでいたこともあるそうで、見た目は貴族のカントリー・ハウスそのもの。広大な庭園を持ち、ブリティッシュ・トラッドの世界にタイムスリップしたかのような雰囲気だ。


ビジネススクールの知名度は、Financial Times や The Economist、Business Week などのランキングで決まってくるが、Ashridge のFull-time MBAは、こうしたランキングのリストに掲載されないことが多い(代わりに Executive Educationの項目に出てきたりする)。前述のとおり、マネージャー向けで少人数、高い平均年齢という特殊なプロフィールが要因と思われるが、ランキングに載らないと必然的に知名度が下がってしまうので、ちょっと残念なところだ。


2011/12/19

MBA受験④ 予備校&カウンセラー選び

ビジネススクールに出願するには、一般的には以下のようなプロセスが必要とされる。

  • TOEFL or IELTS
  • GMAT
  • エッセイ (論文、学校指定のテーマで2〜3本)
  • 推薦状 (2通以上)
  • 履歴書 (アメリカでは Resume、欧州では CV と呼ばれる)
  • インタビュー

これらをすべて自力でこなすのは不可能ではないが、多くの人は専門の予備校やカウンセラーに頼ることになる。MBA受験の業界はけっこうクセのある人が多かったりして、どこを選ぶのかが受験生の大きな関心事だったりするのだが、ここでは自分が実際に利用したものを紹介してみたい。

■ AGOS
渋谷にあるMBA受験予備校の大手。TOEFL対策で通学したが、講師の質はかなり高いと思う。特に Reading、Writing のクラスは得るものが大きかった。Speaking はそれほどでもない印象だったが、Rex 蒲田氏の授業だけは例外で、これぞプロという内容。大学受験のときの代ゼミを思い出した(笑。

■ 新井塾
GMATの通信講座を中心に行なっている私塾。一時期、東京の通学コースに通っていたが、そのときは受講者の数が極端に少なく、講義というより課題の答え合わせ的な内容だったので、途中から通信講座に切り替えた。GMATの基礎を学ぶという点では役に立った。

■ Y.E.S.
GMAT SCのカリスマ私塾。吉井先生の授業は(かなり個性的だが)噂にたがわず素晴らしく、多くの人に絶賛されるのがよくわかる。土曜文法と呼ばれる文法コースの受講を強く勧められるが、エッセイライティングでも役に立つ内容なので、受講しておいて損はないと思う。都内の古いマンションの一室でやっている超ローカルな塾なのに、地方から泊まりがけで来ている人とか、このためにアメリカから来ていますという人がいて驚いた…。

■ 江戸義塾
エッセイライティングでお世話になった。エッセイ添削のクオリティが良かったのはもちろんとして、他にも①メールの返信が早い、②生徒を励ます姿勢、③お金にうるさくない、といった点が非常に好印象。Ed先生には初めてコンタクトしたときから常にポジティブな声をかけてもらって、精神的にもずいぶん助けられたと思う。

■ Matthew Aldridge
Skypeによるインタビュートレーニングを依頼。なんといっても Matthew氏の魅力はリーズナブルな料金だろう。相場の半額〜1/3以下の料金だと思うが、内容は実践的で、Face to Face にこだわらないのであれば、かなりお勧めできる。

■ Cafetalk
よくあるSkype英会話のひとつだが、MBAのインタビュートレーニングを提供している Maria という講師に集中的に教わった。彼女はフィリピン出身だが英語の発音もクリアで、こちらが受験予定の学校を事前にリサーチして対策を考えてくれるなど、低価格のSkype英会話とは思えないほど良い対応をしていただいた。


この他にも、ネットを探せば大手から個人塾までいろいろ出てくると思うが、MBA受験の対策講座は概して料金が高い。特に個人カウンセリングだと1時間あたり2万円とか取られるので、受験準備だけで100万円単位のお金をつぎ込む人も珍しくないとか。気に入った人しか受け付けないカウンセラーとかもいるって聞くし、まったく不思議な世界です。


2011/11/20

MBA受験③ GMAT (主にMathについて)



GMATがどれくらい過酷な試験なのかは、こうすれば受かるMBAの体験談などに書かれているとおりだが、普通の日本人はあまり苦労しないと言われるMath(数学)で特に苦労したので、そのことを書いてみたい(もちろんVerbalでも苦労しましたよ…念のため)。

よく聞く日本人のGMAT攻略法は、Mathでほぼ満点を取っておき、そこからVerbalで底上げするというもの。しかし、いわゆる「私大文系」で高校受験を最後に数学とは無縁の人生を送ってきた自分みたいな人間はそうはいかない。予備校の初心者コースを履修してみたものの、そもそも回答例の意味がわからない始末だったので、中学校レベルからやり直すことになった。


「超」文系のためのGMAT Math攻略法

攻略といっても、実は最後までまともなスコアを取れなかったので、本当の意味では攻略できていない。ただ、Mathが30点台とかの人には、以下の情報が役に立つと思う。


■ インターナショナル・マスアカデミー (マスアカ)
Mathの準備はマスアカだけで充分、という声をよく見かけるが、「超」文系の人は例外である。理由は、マスアカに書かれている解説のレベルすら付いていけない場合があることと、本番のMathが昔よりも難化していることにある。マスアカがとても優れた参考書であることは間違いないが、内容が古いこともあり、これだけでは現在のMathは攻略できないと思う。

■ Official Guide (OG)
数学が本当に苦手な人は、まずOGの問題を解いてみるといい。8~9割がた解けるなら、とりあえずスタートラインには立てている。実際は、OGの問題は本番に比べて簡単すぎるので、ほとんど参考にならない。

■ スラスラわかる! スラスラ解ける! 大人のための数学「検定外」教科書
とにかく基礎からやり直さないとダメだと悟って、手に取ったのがこの本。タイトルだけ見るとわかりにくいが、GMATでカバーされるMathの基礎レベルを理解するのにはかなりの良書。「超」文系の人は読んでおいて損はないはず。

■ Total GMAT Math
受験の終わりごろに知り、もっと早く読んでおけば良かったと後悔した1冊。マスアカの洋書版みたいな内容だが、扱われている問題の傾向が現在の本試験に近い。マスアカでは紹介されていない公式やテクニックも載っている。http://www.gmathacks.com/ からPDF版を購入可能なのも便利。

■ GMAT prep
GMATの公式サイトからダウンロード可能な模試ソフト。本試験に一番近いのはやはりこれだろう。あるMBA受験生のブログに、prepを問題集として使うというやり方が紹介されていて、それを実践した。具体的にはprepで間違った問題をすべてストックして(画面キャプチャしてWord等に貼る)、自作の問題集を作る。問題文の一部をそのままGoogleで検索にかけると、たいていの場合、海外の掲示板などで解説がアップされているのが見つかるので、それも一緒にストックしておく。自分の場合、最終的には200ページを超える自作問題集ができあがったが、これでかなり実力がついたと思う。


前述のとおり、Mathはできて当たり前というのが日本におけるMBA受験生のコンセンサスとなっている。これは逆に言うと、Verbalがとてつもなく難しいので、Mathで点を取っておかないと出願スコアに届かないという事情が背景にある。そして、それはたぶん、ほとんどの受験生にとって事実だろう。ゆえに、Mathが攻略できないことにはGMATの攻略自体が不可能になってくる。

自分みたいな超「文系」のMBAアプリカントがどれくらい存在するのかわからないが、このエントリが同じ境遇で困っている人に、少しでも参考になればうれしく思う。


p.s.
上記に加えてもうひとつ。自分の場合、どうしても問題がわからないときに助けてくれたのは、妻だった。やはり人に教えてもらうというのは最高の手段で、まわりに数学の得意な人がいればヘルプを求めるのが一番いい。妻に感謝。


2011/11/13

MBA受験② TOEFL vs IELTS

  


MBAに限らず、多くの留学生にとって最初のハードルとなるのが英語の試験だろう。ビジネススクールの場合、TOEFL iBTで100点(120点満点中)というのが基準になる。

たしか、受験を始めた当時のTOEICのスコアは750点くらいだったと思う。それからTOEFLの勉強を1ヶ月ほどして、始めて受けたときのスコアが60点台。TOEFLはiBT(Intenet Based Test)になってから難易度が増したと聞くが、いずれにしてもTOEICとは次元が異なり、ノンネイティブがそう簡単に攻略できるようなものではない。

TOEFLが難しい理由はいくつかあるが、特に日本人が苦手と言われるのがスピーキングのセクション。そもそも課題を理解するためのリスニング、リーディングの能力が必要だし、自分の意見を要約して語る形式のため、むしろプレゼンテーションに近い。いわゆる「英会話」のレベルでは太刀打ちできないわけだ。

TOEFLは3月ごろから勉強を始め、全部で5回くらい受けたが、結局、その年の夏が過ぎても100点の壁を越えることはできなかった。このままだと出願に間に合わない…。そんなときに聞いたのが、IELTSの方が簡単らしいという噂だった。

IELTSというのはTOEFLのイギリス英語版みたいなもので、ビジネススクールへの入学なら、Overall 7.0 がおおよその基準。Reading、Listening、Writing、Speaking の4科目があるのはTOEFLと同じだが、次の点が異なる。


■ Reading
文章の難易度はTOEFLとそれほど変わらないと思うが、IELTSはペーパー試験という点が大きい。これによって、設問を先に読んでから文章を読んだり、キーワードに下線を引いたりという古典的なテクニックが使いやすく、結果としてハードルを下げている。

■ Listening
全体の理解よりも、単語の聞き取りなど、ディティールを問われる点がTOEFLと異なる。その場の集中力で勝負できるので、個人的にはTOEFLよりもやりやすかった。ただ、手書きなのでスペルを一文字でも間違うと不正解になるのが難点。

■ Writing
手書きなのが苦しいが、設問は単純で、TOEFLよりも簡単。Task 2ではTOEFLのテンプレートがそのまま応用できる(=アカデミックライティングの基礎ができてればOK)。

■ Speaking
ここが最大の違い。IELTSは面接官との1対1の会話をすることになる。冷酷に残り時間をカウントダウンするだけのTOEFLのコンピューターを相手にするよりも、はるかに楽なのは言うまでもない。


もちろん簡単、と言ってもあくまでも TOEFLと比べての話なので、誰もが楽勝できるような試験ではない。自分も結局、Overall 7.0 をクリアできたのは数回受験した後の11月だった。

ただ、欧州のスクールを目指す人であれば、取り組みやすさの面から、IELTSの方がおすすめできる。例えば Oxford や Cambridge のMBA では現在は入学基準が TOEFL 109~110点、IELTS 7.5 になっているが、帰国子女でもない限りTOEFLでこのスコアを出すのは相当難しいはずで、IELTSに集中した方がハードルが下がると思う。


追記
英語の試験としてどっちが実用的かというと、やはりTOEFLだろう。IELTSがややディティールに寄っているのに対し、TOEFLでは課題の中から要点を抜き出し、整理してアウトプットするという論理的思考力が求められるので。ちなみに、TOEICはごく一部のスクールを除いて、MBA受験では相手にされません。

2011/11/07

MBA受験① 欧州 vs 米国

普通、MBAと言えばアメリカのビジネススクールが定番である。Harvard、Wharton、Stanford、MIT、Chicago、UC Berkeleyなど、有名大学を母体としたトップスクールが数多くある。そんな中、あえて欧州の学校を選んだのには当然、訳がある。

1.期間
アメリカのMBAプログラムは、ほとんどが2年制だが、欧州では1年制が主流である。留学をするにあたって、1年以上会社を離れることは最初から考えていなかった。それ以上のブランクは今の自分のキャリアにとってはマイナス面が大きいだろうし、私費留学なので資金的にも厳しい。

2.平均年齢
一般に、アメリカよりも欧州の方がMBA参加者の年齢が高い。アメリカでは20代のうちにMBAで肩書きに箔をつけ、それからキャリアアップを目指すのが王道と言われるが、欧州ではそうでもないようだ。実はMBA受験を始めるにあたって一番気にしたのが自分の年齢で、少しでも平均年齢の高い学校を探していたら、自然に候補が欧州に絞られていった。

3.多様性
アメリカのスクールの多くは、やはりアメリカ人がマジョリティである。対して欧州は、その人種多様性を売りにしているスクールがよく見受けられる。海外でMBAを学ぶ目的のひとつが、多様な人々とのコミュニケーション能力を磨くためだったため、この点でも欧州の方が魅力的に思えた。もっとも、イギリスではちょっとランクの低いスクールだと、半分くらいがインド人という場合もあるようだが…。

2011/11/03

はじめに


2012年1月から、イギリスの Ashridge Business School で1年間のフルタイムMBAプログラムに参加することにしました。そもそもMBAって何?というところから始めたのが2年半くらい前。勉強方法から学校選びまで、わからないことばかりでしたが、どうにかここまでたどり着くことができました。

MBA受験は、多くの人にとっては非常に険しい道のりです。そんな中、私が一番助けられたのが、実際に留学を果たした先輩たちの生の声でした。受験を通じて、多くの在校生、卒業生から親身なアドバイスをいただけたことに、本当に感謝しています。

自分もいずれ、次の世代のアプリカントために何かをしたい。そう思って、あえてオープンなブログ形式で体験記を書くことにしました。

日本人の受験者数が減少傾向にあると言われている昨今、このブログが誰かのために、少しでも役に立てれば幸いです。